
筆とまなざし#148「夏のような暑い日に。夫婦で錫杖岳、『左方カンテ』へ」

PEAKS 編集部
- 2019年10月01日
9月に入ったというのに、歩き始めるとすぐに大汗をかく暑さ。槍見温泉から笠ヶ岳へ登る登山道を1時間ほど歩き、さらに錫杖沢の出合から急登を登って「左方カンテ」の取り付きに向かいます。駐車場から取り付きまで約2時間。週末ということもあり、出合にはテントが数張り張られて賑わっていました。
「左方カンテ」は最高グレードⅤ+(5.8程度)と、錫杖岳のなかでも登りやすくて人気の高いルートです。山岳会に入ってクライミングを始め、ある程度力がついてきたらまず目標にするルートといってもいいでしょう。ぼくが登ったときは残置ピトンやリングボルトがありました。現在はそのようなものはほとんど抜かれ、カムでプロテクションを取らなければならないと聞きます。
取り付きで小休止して準備していると後続パーティーが到着。先行パーティーもいるようで岩陰に靴が置かれていました。
「1P目はⅢ級でいちばん簡単だけどリードしてみる?」
アルパインっぽいルートでリードしたことのない妻ですがここなら問題なく登れるはず。頷いたので妻のリードでクライミングを開始しました。たとえ簡単なピッチでも、リードして登るのとそうでないのとではまったく充実感が違います。岩溝の途中でピッチを切り、ツルベで2P目を登るとすっきりとしたテラスに出ました。3P目、マントルしてからフェイスを右上するピッチは覚えがありました。噂どおり古い支点はすっきりとなくなっていて、ところどころにあるクラックにカムでプロテクションをセットしなければなりません。それがアクセントになっていて面白さが増していると同時に、以前よりワンランク上のより良いルートになっていると感じました。かぶり気味のフェイスをガバで豪快に乗り越え、テラスの立ち木でピッチを切りました。
テラスからは青空の下に穂高連峰がくっきりと見渡せました。木陰でビレイしていると涼しい風が吹き抜けていくのだけれど、日向は灼熱の暑さ。手をかける岩はジリジリと熱くなり、足が熱いなと思ったらクライミングシューズのゴムがカンカンに熱せられているのです。4P目は短いチムニーでⅣ級。ここも妻にリードを任せると難なく乗り越えてくれました。5P目のフェイスは簡単ながら残置支点はなく、プロテクションセットがおもしろいピッチでした。大きなテラスで小休止。続くピッチがⅤ+の付いている核心ピッチです。出だしの小垂壁が核心で、ちょっとしたボルダームーブが要求されます。ピカピカのボルトが一本打たれていましたがそれは使わずに突破。チムニーからクラックをたどり、少し脆いフェイスを登ると、下から登ってくるパーティーの姿が見えました。ここから「注文の多い料理店(5.9)」と合流するためです。さらにもう1ピッチ登ると実質的なクライミングは終了。以前はここから下降したはずですが、上から声が聞こえたかと思うと、2パーティーのクライマーが下って来ました。聞くと、歩きのようなピッチがもう1ピッチあるとのこと。ぼくらを含めて5パーティーが集まってしまい、懸垂するにも時間がかかりそうだし、せっかくなので登ってみることにしました。
妻がリードし、ビレイ解除のコール。登山道のような踏み跡を辿ると大きな木にスリングが幾重にも巻かれていて、そこが終了点だとわかりました。
「ここ、すごく眺めがいいよ」
木の袂まで来ると視界が開け、穂高はもちろん槍ヶ岳やその先の山々まで見渡すことができました。先日登った小槍も見えます。
残りわずかになった行動食を齧りながら、猫の額ほどの木陰でしばらくその景色を眺め、人の声がしなくなったころに懸垂下降を開始しました。
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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